霧雨城の その1

作:akiyo


 時代は平安末期、京の貴人たちの優雅な生活が、荒っぽい武者たちに追われる頃。
 安芸の国に霧の中に隠れるような美しい里があった。里を一望できる山に建つ霧雨城にそれは美しい姫さまがいた。
 
 白く透き通った肌に弥勒様のような笑みと浮かべる姫さまだったが、その身は不治の病に冒され、小枝のようにやせていた。床にふせがちな姫さまだったが、里の祭礼など行事の際には城の天守閣から姿を現し、城下の里人に慈しみの笑顔を見せて喜ばせた。
 
 村人たちも姫さまの病を知っていたから、健気に公事を務めようとする姫さまを愛した。満月の夜など、天守閣に立つ姫さまの姿は天女のごとく美しく、その命のはかなさに村人は涙を流した。
 
 そんな姫さまを愛していたのは「人」だけではなかった。霧雨城のひと山向こうの峠に住む鬼も姫さまに、許されぬ恋心を抱いていた。しかし旅人から奪った酒を飲んでは暴れる嫌われものの鬼だから、人里におりることはかなわぬ。満月の夜に一本松のてっぺんに登っては姫さまを見つめていた。

        

 ある夜、鬼がイノシシを獲って食べていると、天から仏さまが現れ、鬼に
「哀れなおまえの望みごとをひとつだけかなえてやろう」
 と声をかけた。
「お姫さまがほしい」 鬼は即答した。
 仏さまは鬼を見つめながら、
「あの姫はあと半年しか生きられぬ。それでもよいか」
 と訊ねた。
 鬼は姫さまの病のことを知らなかったから、それを聞いてひどく驚いた。
「そんなかわいそうな…仏さまの力でなんとかならねぇか」
 鬼は哀願するように訊ねた。
「おまえが望めば健やかに生きられるようにしてやろう。しかし、おまえのものにはならんぞ?」
「それでええじゃ。姫さまが健やかに生きられればそれでええ」
 鬼の恐ろしい顔に喜びの光が差した。
「そのためには、おまえがある事をしなければならない。それができるか?」
「姫さまを助けるためならなんでもできるだ。言ってくだせぇ」
 仏さまは鬼にその方法を話した。鬼はそれを聞き、困惑し、苦悶の表情を浮かべた。しばらくの間があってから、鬼は意を決したように言った。
「ほんとうにそれで姫さまが助かるなら、そうするだ」
 仏さまはうなずくと天に消え、鬼は森に消えた。 

                                             つづく


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